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脳とテクノロジーの融合、イスラエルがリードするBrainTechとその先 — Pitch Tokyo #7 (2018–2019) BrainTech Event Report

イスラエル・東京に拠点を置き、イノベーションを創造するAniwo株式会社主催のイベント、Pitch Tokyo。12月回は「BrainTech」をテーマにWeWork乃木坂にて開催したイベントの模様をお届けする。
BrainTechとは、「Brain(脳)」+「Technology(技術)」を掛け合わせた造語であり、Neuroscience(ニューロサイエンス・神経科学)とも呼ばれる。2013年当時のアメリカのオバマ大統領は「BRAIN Initiative」(ブレイン・イニシアティブ)という国家プロジェクトを始動させ、12年間で$4.5B(約4,900億円)という莫大な予算を投じて脳研究と技術応用を進めている。
イスラエルでは、シモン・ペレス前大統領が設立した非営利団体、Israel Brain Technologies(IBT)主催の国際カンファレンス「BrainTech Conference」が2013年に初めて開催された。2017年開催のBrainTech Conferenceではスタートアップ・投資家・研究者・政府機関からの参加者を含む750名を超える人々が世界中からイスラエルに詰め寄せ、関心の高さを示した。2019年4月に4度目のBrainTech Conferenceが開催される予定だ。
本イベントでは、はじめに基調講演として『世界のブレインテック事業化動向とテクノロジー紹介』と題し、株式会社neumo 代表取締役の若林氏にご講演いただいた。

若林 龍成 氏
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを創業し、副社長に就任する。
ビービットでは業務執行責任者として活躍し、2016年米国にベンチャーキャピタルを設立。
京都大学やスタンフォード大学と共同で研究を実施しEEGデバイスやAI技術に対して投資を行っている。また、ビービットではR&D組織を持っており、大学や企業と脳神経科学を活用したビジネスの応用の共同研究プロジェクトを牽引してきた。
2017年に独立し、株式会社neumo代表取締役に就任。
若林氏が2017年に立ち上げた株式会社neumoは、「人類1000年後の存続への貢献」をミッションに活動しており、脳の聴覚知覚、認知機能を向上させる事に取り組んでいる。
若林氏からは「BrainTech」が指す意味について
①神経系を測る ②神経系を分析する ③刺激して操作する
の3点について解説がされ、続いてBrainTechが注目を浴びている背景と、各国のプレイヤーの動きについて述べられた。
BrainTechで先を進んでいるのはアメリカとイスラエルの2国。両国に共通しているのは国や政府機関が率先してBrainTech関連のプロジェクトを推進している背景がある。
イスラエルの「BrainTech Conference」では多くのアメリカ人脳科学研究者が訪れているという。
また中国では、習近平国家主席が自ら構想・提起したと言われる「千年大計・国家大事」において雄安新区という土地でBrainTechを軸に土地開発が進められている。
そしてシリコンバレー企業の動きとして、Brain Machine Interface(BMI)トップ5つの企業が挙げられた。
Facebook / Openwater / Kernel / Neuralink / Paradromics
うちNeuralinkはイーロン・マスク氏が創立したスタートアップであり、BMIを活用した脳とAIの統合を目指している。
今後の日本企業の興味領域として述べられたのが、うつや健康寿命などのライフサイエンス領域から、ニューロマーケティングなどのビジネス領域までBrainTechの適応領域は幅広い。
2019年4月には、イスラエル・テルアビブにてBrainTechのカンファレンス「BrainTech 2019」が開催される。興味のある方は是非参加してみてはいかがだろうか。

続いてAniwoが選ぶ、注目のイスラエル「BrainTech」スタートアップ紹介のパートに移る。
今回紹介する企業はTheranica / BrainMARC / NeuroAppliedの3社だ。
イスラエル現地で撮影したピッチ動画を流し、最新の技術やビジネスモデルに触れてもらう。
Theranica
2016年春に創業されたメディカルデバイススタートアップ。
日常的に全世界で約10億人の偏頭痛患者がいるが、現状は痛み止め薬や食事療法など、正しい治療法が施されていない。
Theranicaは神経調節を通じて偏頭痛緩和させるパッチ(Nerivio)を開発。パッチを腕に装着して個々にカスタマイズされた治療を行うことが可能になる。
FDAの臨床実験を終えた後のSeriesBの資金調達フェーズであり、日本企業にも関心がある。

BrainMARC
BrainMARCは医療機関向けに、脳波分析の技術開発を行なうスタートアップだ。
同社のプラットフォームを用いて、医者は脳波モニタリングセンターのデータとともに、臨床試験を行うことが可能になる。
患者の脳波を測定しモニターで分析することで、患者やフェーズに応じたリハビリの難易度をを調整でき、患者のエンゲージメントを高めることができる。

NeuroApplied
NeuroAppliedは顧客の潜在的に欲しているニーズを取得するためのマーケティングプラットフォームを法人向けに販売している。
分析プラットフォームの裏には機械学習技術とニュートラルネットワークコンピューティングシステムが用いられている。
ニューロン(情報伝達を担う神経細胞)内のネットワークから潜在意識を測定し、本心で印象を定量的に測定するテクノロジーを開発している。

イベントも終盤に差し掛かり、最後のパネルディスカッションパートに。
パネリスト・モデレーターは以下の方々にご登壇いただいた。
パネリストの方々はいずれも現役CEOが揃う豪華な顔ぶれとなった。
< パネリスト >
若林 龍成氏 / 株式会社neumo代表取締役
小林 孝徳氏 / 株式会社ニューロスペース 代表取締役
寺田 彼日 / Aniwo, Founder & CEO
<モデレーター>
松山 英嗣 / Aniwo, Ltd. Senior Vice President of Business Development

(以下敬称略)
人体実験どこまで可能?

若林:現在の実験対象のメインはマウス、最近はハエで実験をする会社も多い。ハエを選ぶ理由は、人間に割と近いからである。
例えば、オスのハエが性交渉をできない状態にした後に、アルコール入りとなしの餌を選ばせると、ハエはアルコールありの方に行きやすい傾向がある。
人間に実験をするにはかなりハードルが高いので、今後しばらくは動物がメインではないだろうか。
寺田:ヘブライ大学における実験はマウス。あと、臨床実験に関してイスラエルでは企業と病院の距離感が近いので実験はしやすい。
小林:サイエンスの面と人間的な面のせめぎ合い。GAFAだとマウス実験の後、人間での実験を始めてはいるものの、日本でのハードルは非常に高い。
松山:人体への導入時の反応はどうだろうか?
小林:侵襲と非侵襲で大きな差がある。あとはプライバシー保護の観点での懸念が大きい。
攻殻機動隊の世界(脳がインターネットに繋がる )はいつ来る?
寺田: 肌感だと10年後くらいではないか。すでに現在でもBrain Machine Interfaceの研究は進んでおり、抵抗の少ないフィールドから少しずつ実装が始まっていくと思う。
若林:ある学会で、神経が300ほどの線虫の実験が発表された。人間の神経の働きがわかっていても、虫だとわからない場合もある。信号の違いなどで。いまだに未知の領域。
現状だと、てんかん患者に対して記憶力を上げる実験は進行している。
脳の活動を計測して、うまく覚えられた場合と無理な場合を振り分け、後者の場合に電気信号を与えて記憶を定着させやくする試みはある。
このようなAugmentation分野(科学による人間の機能拡張)の活用は進むだろうが、攻殻機動隊はまだまだ先ではないかと思う。

小林:10~20年くらい先ではないか。
その時に注目されるテーマとして【意識とは何か?】があると思う。
睡眠ビジネスをやっている身として、睡眠中は意識がない。
人間は睡眠後と睡眠前で「同じ自分だ」という確証がない。
また、今後意識とは電気信号の集合であると判明した場合に、それを再生する試みもでてくる。
脳は騙されやすいので、幸せを作り出す分野が出てくるかもしれない。
BrainTech業界に参入するには?
小林:最先端ラボとのコネクション。
定期的に顔を出して学ぶことが重要。
特に海外だと、そこにビジネスなどのコネクションもついて来る。

若林:僕自身は去年の9月に起業したのだが、何していいかわかんなかったから起業した。
人間とりあえずやってみることが大事。
ブレインテックはすぐには売上の目処が立たず、研究期間も長いので、副業で始めるなど資金面での心配はあるが、何をやるかに対してはそんなに心配せずやってみるといい。
寺田: 国の資金など、大規模な資金により的に発展していく分野なので個人でやると大変。大手や専門家と協業しながら進めるなど、オープンイノベーション的に幅広く協力しながら進めていくのがいいのではないかと思う。
次回のAniwo主催イベントは2019年2月27日(水)永田町GRiDにて「Sharing Economy」をテーマに開催する。

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文責:Aniwo 服部
編集:Aniwo 黒須